2012/05/04

[感想文]塩野七生「ローマ亡き後の地中海世界」



 塩野七生の大著「ローマ人の物語」シリーズ後の地中海の物語である。

概要 

西ローマ崩壊後、北アフリカやスペインに進出したイスラム勢力と、イタリアを中心としたヨーロッパ諸国との、地中海の覇権を巡る争いを描いている。 物語の主人公となるのは北アフリカを根城としたイスラム海賊達と、彼らと戦うキリスト教勢力である。

ローマ崩壊後、東ヨーロッパではビザンツ帝国が小アジアを挟んでサラセンと対峙する。 西ヨーロッパにはこれを統べる大国は生まれず、フランク王国もシャルルマーニュの死とともに瓦解する。
北アフリカはイスラム勢力の影響下に置かれ、ジブラルタル海峡を渡ってイベリア半島までを勢力下とするが、トゥール・ポワティエの戦いでフランクに破れその進撃を止めることになる。 
そんな中、北アフリカのイスラム勢力はチュニス・アルジェを拠点として地中海を挟んでイタリアと戦うことになるが、元来砂漠の民であるサラセン人は、海での戦いでイタリア人にはまったく歯が立たない。
そこで彼らの取った戦略が、小規模艦隊による略奪を目的とした沿岸部へのゲリラ戦である。
彼らは財貨を奪うだけでなく、異教徒であるキリスト教徒を攫って北アフリカに連れ帰り奴隷とする。 こうして海賊がひとつの産業として成立し、実にAD652以降、AD1800頃まで続くことになる。 
シチリア島はサラセンに占領された後、ノルマン人の騎士達によって奪回されキリスト教徒とイスラム教徒の共存時代が続きパレルモを中心として発展を遂げるが、のちにスペインの勢力下となり イスラム文化はその名残を留めるのみとなる。
 奴隷として連れ去られた人々の多くはイタリアと南仏の沿岸部に住む平民であり、身代金を払って開放されるめどもないまま「浴場」と呼ばれた収容所に入れられ過酷な扱いを受けていた。
彼らを救い出すために今で言うNPO法人のような形で「救出修道会」や「救出騎士団」組織され、集めた寄付金で彼らを買い戻して故郷に帰す、といったような活動も1800年代まで行われた。
やがてオスマン・トルコが台頭し、コンスタンティノープル陥落後は積極的に海賊達を支援して自らの戦略に取り込んでいくようになる。
海賊の頭目はオスマンの海軍総司令官の地位までも占めるようになり、全盛期を迎える。
オスマンがレパントの海戦に敗れて後は、西方への進出に消極的になった結果、海賊への支援も下火となっていくもののナポレオン戦争に至るまで、北アフリカの海賊達は略奪を続けた。

感想

中世暗黒時代を舞台とする上巻は読んでいて苦痛になるほどグダグダである。

そもそも、塩野七生の持ち味というのが、細かい記録から当時の社会や人々、その空気感までをいきいきと描く能力にあるので、もともと記録に乏しい暗黒時代の話はつまらないものになるのも当然かもしれない。

シチリア島において、ノルマン王朝のもとでイスラム教とキリスト教奇妙な共生関係となり、大いに発展を遂げるくだりは興味深い。

一方、ルネサンス時代を迎えたヨーロッパとオスマントルコの対立を舞台とした下巻は著者得意の時代ということもあり非常に面白くなる。
かなりイタリア贔屓な視点であり、イタリア人のパオロ・ヴェットーリやアンドレア・ドーリアが非常に魅力的に描かれている一方、海賊側のハイルディーンやドラグー、ウルグ・アリが面白みのない悪役のような描き方しかされていないことには留意すべきと思われるが・・・。

また、長大な割に肝心なことは著者の別著である「海の都の物語」や「レパントの海戦」で語られており、大きく省かれているので散漫な印象がある。

上巻末の「サラセンの塔」の写真集を見ているとかなり楽しい。マルタやシチリア、イタリア沿岸部を旅行するなら読んでおくといい本だと思う。
時代物としてなら下巻は「海の都の物語」を読んだほうがいい気がする。
比較的マニアックな存在だった北アフリカの海賊に焦点を当てているのは面白いが、内容の割には長い・・・。


メモ

大帝国を築くには巨大なカリスマか、社会的成熟度が必要。ローマ亡き後空白地帯だった西ヨーロッパで長らく帝国が誕生しなかったのはローマに侵入してきた蛮族の文化的なバックボーンが薄かったから。シャルルマーニュがもっと長生きして後継者に恵まれれば、カリスマ主導での大帝国は成ったかもしれない。
スペインはイザベラの時代でなくても宗教キチガイか。著者に嫌われてるのは感じる。
フランスはスペイン憎しであっさりトルコと組んだりする。戦略と節操に欠けている。
ヴェネツィアは塩野七生補正がすごい効いてる。
オスマンは意外と開放的で、イェニチェリだけでなく、海軍の提督としても積極的に元キリスト教徒のヨーロッパ人を登用してて、流れだけみてるとなんでレパントで負けたのか不思議である。
マルタ騎士団のエピソードは、彼らに焦点を当てた章では英雄的に描かれる一方で、ヴェネツィア視点で見ると中世の遺物以外の何者でもないという点が面白い。妻帯を禁じたせいで常に人員不足になっているというのは間抜け以外の何者でもない気がする。

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