2013/05/02

[感想文]梅原勝彦「日本でいちばんの町工場 エーワン精密の儲け続けるしくみ」


概要 

東京の工作機械メーカーのエーワン精密創業者である梅原勝彦の本。
エーワン精密は旋盤用チャックの専業メーカーで、コレットチャックのシェアNo1を占める。
この会社の特筆すべき点は高い利益率で、35%超の業績を40年近く継続している。
本書では創業者梅原の視点から、エーワン精密のこれまでの歩みを振り返り、
成功の秘訣を紐解く。

感想

短くて構成が明快で読みやすい、良い本だと思う。
「儲け続けるしくみ」とか身も蓋もないタイトルだけど、全然俗な内容でもなく、理にかなった戦略を立てている。この人は徹底したリアリストであると感じた。


以下詳細な感想。

・短納期
 オンリーワンの技術や商品が見当たらないエーワン精密の競争力の源泉は短納期である。短納期の秘訣は三つ、余剰の設備と人員、あえてアナログ方式の生産指示、従業員のモチベーション。
 前者二つは分かるが、モチベーションについてはトップが頑張ってる背中を見せろという精神論に終始している。まあ、モチベーションは完全に精神に属するものだから、精神論になって当たり前かもしれない。しかし特に何も教えないで現場に放り込んでOJTで学んでね、とはよくある悪いパターンな気がするのだが。

・不景気の立ち回り
 製品単価を下げずに設備投資して好景気に備えろ。
不況時に安い製品をたくさん受注してしまうと、好況時に不採算商品のために工数を取られておいしい仕事を取りこぼしてしまう。また不況時は金利が安く条件の良い融資も受けやすいので、この時期に設備投資を行うというのは理にかなっている。こうして増設しておいた設備のおかげで、好況時にはその恩恵を十分に受けることが出来る。
好況、不況が波のように繰り返すという前提を信じるのであればまったく理にかなっている。

・間接部門の最小化
 営業は不要。
 ひとつの商品決め打ちで短納期、高品質を実現しているから可能な戦略。
営業にかけるコストの費用対効果が適切かどうかという判断が必要という、当たり前の話の極端な形だと思う。
営業をかけることで、当然競合他社との見積もり競争になるわけで、値段を下げざるを得ない。なるほどその通り。
ものづくりしてる人間に悪人がいるわけ無い、という持論が展開されている部分があるが、共感できるようなできないような。確かに悪人はわざわざこんな面倒くさい大変な仕事選ぶわけないよな、とは思うんですけど、悪人じゃなきゃ善人なのかというとそういう話でもない。
 納期管理・会議・組織も不要
管理はしなければしないほどいい、しないで良い仕組みを作る。
ジャック・ウェルチもまったく同じ事を言っていた。
ただ、決まった仕事をとにかく早く高品質にこなす、という戦略をとっているからこその最適化であって、過剰最適化なんじゃないかという気もしなくもない。

・従業員
 仕事をしやすい環境を整える。
高いボーナスや長い休みのような福利厚生を充実させることは、本当に労働者のモチベーションを高める効果があるのかどうかは疑問に思っていた。
ボーナスや休暇のために働くということは、余暇のために労働をするということになってしまわないか?と感じるからだ。
会社として従業員を大切にしている、というメッセージを発信しつつ、モチベーションを高め、かつ仕事の効率を上昇させるという意味で、機械設備や労働環境に金をかけるというのは最も理にかなっていると思った。

 上の人間が成長すべき
教育にもコストはかけないで済むならそれが一番である。最もコストがかからず経済的な教育はOJTである。というシンプルそのものな思想だが、これが上手くいかないから多くの会社は悩んでいる。難しい。社員研修など行かせる前にまず経営者から勉強しなおせ、ということには同意する。

・利益を出す仕組み
 売上、人件費、材料費、設備費、総支出の5つの数字を押さえていれば利益は出る。
このへんまで読んでいて気づいたのだが、梅原氏の根幹的な思想は「シンプル化」である。取り扱う商品を決め打ちしてシンプル化しているからこそ、それに付随する管理体制をシンプルにして低コストにできる。決め打ちはリスクを伴うが、それが上手く行っているからすべての歯車が噛み合っている。このあたりを理解せず、このやり方の上辺を模倣した所で意味は無いと思う。

・新事業展開
 トップを取れる可能性のある市場に集中的な投資を行う
このへんはもうドラッガーの思想そのままであるが、特に勉強せずに自然とこのような考え方が身についたというのはもうある種の天才であるとしか思えない。

メモ

「悩むこと」について書かれた部分で、苦しいからこっちでいいや、と決めたことには信念が宿っていないので、他人からなにか言われると揺らいでしまうという記述があったが、これが刺さった。その通りである。物事に対する真摯さとか本気さは、「どこまで悩めるか」ということに現れるのかもしれない。

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