2013/05/25

[感想文]宮内 泰介編「なぜ環境保全はうまくいかないのか 現場から考える順応的ガバナンスの可能性」


三行レビュー

環境保全プロジェクトのガバナンスについての本だが、複数の人間が関わるプロジェクトがどうしてうまくいかないのか?という普遍的な問いに答える本となっている。とても面白い本。

概要

環境保全とは、科学的な管理手法だけで達成されるものではない。
科学的管理とは、「一定の条件化下」で観測される事実から一般的な法則を導き出し、一定の条件を守ることで結果を保証するものである。
しかし、大自然を相手とする環境保全においてはそもそも一定の条件を保つということ自体が困難である。





そこで順応的管理と呼ばれる手法が用いられる。
個別の事案ごとに試行錯誤を繰り返す中で、目的達成のための正しい道筋を見出すという手法である。具体的に言うと、「なぜかは分からないが上手くいっている」というケースが往々にして存在するものであり、それを利用して正しい道筋をつけるというやり方である。

しかし、そう簡単に順応的管理は機能しない。環境保全とは利害関係者の合意と協力が必要という社会的、政治的な側面も持っているからだ。
多くの事例はこの点でつまづき、失敗している。
かと言って利害関係者と思しき人々を集めて話し合いの場を持ったところで、関わる人数の多さ、利害の大きさやそもそもその問題に対する関心の有無という複雑な要素が絡み合い、上手くいかない。
ではいったいどうすればよいのか?

1 試行錯誤とダイナミズムを保証する

2 多元的な価値を大事にして複数のゴールを設定する

3 「大きな物語」を飼い慣らして、地域の中での再文脈化をはかる

この3つのポイントを押さえることで、地域社会と協調した順応的管理の実施が可能になる。このガバナンスの手法を、本書では順応的ガバナンスと呼ぶ。
本書は現場からの多くのレポートを通じて、順応的ガバナンスの可能性について考察する。

感想

本書の内容は環境保全をビジネスと置き換えても通用する普遍的な内容だと感じた。
というか、どんな業界であれ、人と人との関係から起こる摩擦という問題はどこでも同じなのだから、その解決の枠組が似通ったものになることは当たり前かもしれない。
順応的ガバナンスの3つのポイントとして挙げられた項目ごとに、ビジネスに置き換えてみる。

1 試行錯誤とダイナミズムを保証する

新たなビジネスモデルの構築や技術の開発にトライアンドエラーは不可欠なものである。
これは通常PDCAサイクルという形で実施されるが、理想的にサイクルが回ることのほうが少なかったりする。
管理側が計画をし、実施する。上手く行かなければ計画に修正を加え、再び実施する。管理側としては別に問題ないフローなのだが、実際に「上手くいかない」「修正を加える」という工程で不利益を被るのは現場である。現場は当然怒り、協力が得られなくなり、計画そのものが頓挫してしまう。
これは計画によって生じるリスクの分配に対して、実際にリスクを被る利害関係者が納得していないために起こる。そもそもリスクが偏差することは避けられないので、平等なリスクの分配よりも納得を目指すべきである。
納得を得るためには、リスクを取ることで得られるメリットの説明が必要であり、そのコミュニケーションを一方的に省いてしまうと、PDCAサイクルは回らなくなる。

当然現場はリスクを最小にしたいと考えるので、試行錯誤の中で様々な改善案が出てくるが、これを条件を同一にしようという科学的管理にこだわらず、柔軟に受け入れる度量を仕組みの中に取り入れること(ダイナミズムの保証)も必要である。

2 多元的な価値を大事にして複数のゴールを設定する

3 「大きな物語」を飼い慣らして、地域の中での再文脈化をはかる

本書での例は、たとえば環境保全だとか希少動物の保護という「大きな物語」を、地域の再生や活性化というテーマと結びつけて、多元的な価値をプロジェクトに認めて遂行していく姿が描かれている。そうすることで、地域の中でさまざまな利害を持った人々を結びつけた一つの大きな流れが作り出されている。
これは、あくまで営利活動を行うことを前提としている企業と、地域のコミュニティやNPOといった資本の論理の外にある団体が共生関係を結べることを示唆していると思う。
ローカルであること、これが何よりの強みである中小企業にとっては特に着目すべき点かと思う。地域社会との強い結びつきは、限定された市場でのナンバーワンを取ることに欠かせない要素であるし、またいかなる他社も乗り越えられない参入障壁となり得るからである。

より良いマネジメントを追及するために

繰り返し必要とされるのは「柔軟さ」というキーワードである。一本化されたルール、厳密に定められた基準、そういう要素が逆に順応的な管理を妨げるという観点である。

もちろん、一定の品質の商品やサービスを安定的に供給することが、そもそもの企業の営利活動の基本である。そのために科学的管理は欠かすことのできないツールである。おそらくそれは今後も変わる事はない。

しかし、特に中小企業の活動の中では、順応的な管理が必要とされる領域は大きくなっているように思う。、ただ効率よく目の前のタスクを片付けて拡大再生産を繰り返していれば自然と利益が上がった時代ではもはやなくなっている。生き残りのために、科学的管理を金科玉条とするのではなく、一つのツールと位置づけるような意識の改革が必要なのではないかと思う。

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