2013/05/19

[感想文]菅原出「外注される戦争 民間軍事会社の正体」


概要

private military companyの頭文字をとって「PMC」と呼ばれる、民間軍事会社についてのルポルタージュ。
元来、安全とは国家が軍事力によって国民に対し保証するものであった。 しかし現在、その多くの領域を民間の企業が担うようになりつつある。
東西冷戦からイラク戦争、そして911テロ事件等の近年の大きな紛争の中で成長を続ける民間軍事会社の姿を、関係者へのインタビューや取材を通して克明に描く労作である。

PMCの実態

「民間軍事会社」と言っても、単なる傭兵派遣業ではなく、その業務は多岐にわたっている。
・警備員の派遣
・軍事訓練
・人質解放交渉
・ロジスティクス支援
・兵器の修理、メンテナンス
・情報収集活動・地雷、不発弾処理

PMCは単体で一つの軍隊のように機能するわけではなく、正規軍の機能をアウトソーシングされる形で請け負う。基本的には前線を担うのが正規軍であり、PMCの主任務は後方支援である。警備員やコンサルタントとして退役軍人やSASやデルタフォースなどの特殊部隊出身者がリクルートされているイメージがあるが、それだけではなく治安維持のための元警察官や輸送任務担当としてトラックのドライバーなども派遣されているそうだ。

パイナップルARMYという作品が1985年~1988年代に連載されていたが、この作品では主人公のジェド・豪士が「CMA」というPMCの軍事訓練インストラクターとして活動する姿が描かれている。かなり早い時期から一般にこのようなサービスを提供している企業があることは知られていたようだ。

正規軍の人員不足

ベトナム戦争当時から既に兵站などの後方支援の業務を民間企業にアウトソーシングする試みは行われていたが、冷戦以降の軍縮によって、正規軍は慢性的に人員不足に陥るようになり、その流れはますます加速することになった。
また、安全保障という概念そのものが伝統的な国家間の戦争を対象としていた時代から、国際的なテロリズムや疫病などをも対象とするようになり、軍隊がカバーできる領域を大きく越えるようになったことも、背景の一つである。

途上国の安い兵隊

フィジーの軍人やネパールのグルカ兵、コロンビアの対テロ特殊訓練を受けた警察官や軍人など、物価が安く慢性的な失業問題に苦しんでいる発展途上国から人材がリクルートされている。彼らに対する報酬はアメリカ人の1/5~1/10であると言われている。
製造業でも生産現場は人件費の安い場所へ安い場所へと移転していくものだが、同じ市場原理は当然民間の営利企業であるPMCにも働く。
しかしこの仕事は生産やサービスの仕事とは決定的に異なり、命の危険のある仕事である。一方は割の良い仕事があって喜ぶ、一方は格安の兵士を調達できて喜ぶ、これをウィンウィンの関係と呼ぶことにはかなり抵抗があるのだが…。

その他感想

米軍がいかにPMCと密接に結びついて活動しており、軍の運営や作戦の遂行といったあらゆる活動が、彼らの協力なしにはすでに不可能となっている事実が浮き彫りにされている。

この実態が国家による安全保障という活動の中で、完全にコントロールされているうちはコストの削減やスキルを持った人材の流動化に寄与するものであったとは思う。
しかし、イラク戦争後の混乱の中で、PMCが担う市場がさらに大規模化、多様化していく中で、ブラックウォーター社の警備員が惨殺される事故、アブグレイブ刑務所の虐待事件など、PMCの活動がアウト・オブ・コントロールになりつつある実態は、大きな危険を孕んでいるように感じる。

例えば、日本の製造業大手各社は、高度経済成長時代には日本の経済発展を大きく牽引する存在だったが、多国籍企業となったいまは、日本の国益を代弁する存在ではない。悪い言い方をすれば日本を踏み台にして利益を追求する側面さえある。

「暴力の独占」は国家が成立するための重要な条件であるが、暴力の管理を人間によるコントロールでなく、市場原理という仕組みに委ねるということは、その条件と相反することではないかと思う。気づかないうちに国家という存在そのもののあり方を脅かす事態に至るのではないだろうか。

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